歯石のお掃除にいくと、やたら勧められませんか?矯正。街角でもやってる人多いな~って印象があるし、一昨年、歯科医にしつこく勧められ専門医と話したけどその結果不適合となった。私は過去に苦労して歯列矯正した経験者なのだ。なのになぜ勧誘されたのか?
自分は子無しといえども友人知人は子育て真っ最中。こんな話でも、親の皆さんの参考になれば。
物心つく前から無類の飴好きで虫歯だらけだった私は、実は反対咬合でもあった(いわゆる受け口)。子供のうちはよく見ないと分からない程度だけど、上顎でカバーしない下顎は成長と共にどんどん発達するらしく、父にクリソツで猪木アゴとなると、コリャ嫁の貰い手もなかろうと親は案じたのだろうな。
当時の歯列矯正は、乳歯から永久歯に生え替わるタイミングにあわせて歯の本数を間引きするもの。歯の根は隙間に所定の本数を全部生やそうとするので、顎が小さいまま放置しておくと歯が並びきらずガタガタになってしまう。生え変わり時をいかして抜歯しながら、口中のスペースにあわせて並びと本数を揃えていった。
余談だけど健康な歯って、抜けにくいんだよね。
歯科医が腕を震わせながら力任せにギュッと引っ張っても、こっちの頭がヒュッと浮くぐらい。なんなら肩に足かけて引っこ抜くか、ぐらいの力加減になる。
今はだいぶん軽装備化されているようだけど、当時は歯の一本一本を包むようにアルミの輪をはめ細い針金で1本ずつ縫うように縛り上げていた。歯が生える方向を力で制御しているから痛いし、痛みに慣れた頃には針金を縛り直されてまた痛い、を繰り返す。縛った針金がほっぺたの内側に当たっても痛いし、アルミの輪が歯ぐきに埋まっても痛い。この頃から口の痛みに人知れず堪える運命だったのかもしれないなぁ。
そしてニッと笑うと歯がオール銀色。総銀歯。これもキツかったなぁ。
「仕事チョ~楽しぃー!」といってる時期に父は他界してしまったが、お陰で私の歯並びはタレントのように美しい、いや美しかった。ところが結婚して数年たったある日、下顎の前歯が一本曲がっていることに気づいた。
狭いダブルベッドに寝ていたせいで、私はベッドの端っこに横になって眠ることが多くなっていた。落ちるから当然寝返りも極力うたない。ずっと何年も同じ横向きで寝ていたことになり、これが姿勢を曲げ、下になった顎も曲げたようだ。お陰で結局耳石も落ちたし、もう散々だ。ホットヨガに行きはじめて身体のゆがみを指摘されたが、床にぺたりと平らに横たわれるようになるまで3年かかった。
つまり生活習慣で頭蓋がゆがめば、あんなに苦労して直した歯列もまたズレるのだ。
直しておけば一生もん、ではないということ。
カルシウムの体内備蓄が2年で一巡するように、体は生きて変化していく。いまや曲がった一本は上顎とぶつかりつつあり、残念なことに私は歯列矯正者に見えない。(だから勧誘された)
芸能人の整形手術なんかで耳にすることもあるが、顎のサイズに合わせて歯を抜くと(特に奥歯)、もって生まれた顎よりもさらに小さくなる。若いうちは、小顔でいいわね、ぐらいにしか思わないだろうけれど、これは経年劣化があり、特にジョイント部が弱い。欠伸をするとガクッと顎が鳴るし、頭蓋に走る衝撃もある。食事のし始めは顎が痛いこともしょっちゅう。また私の母はいつのまにか上顎が総入れ歯になっていて(無事な歯もあっただろうに)入院先で口からの食事を諦める羽目になった。(→老年代の歯と健康維持)
容姿のために歯を抜きすぎると、中年以降に苦労するのだ。
歯は上下にかみ合っていないと、食べものを噛み砕けない。歯は100キロだかの重量を支えられる力があるそうで、奥歯は特に重要なのだ。私は上下の本数がバラバラで3~4本ずつ少ないうえに親知らずが残っていて妙だけれど歯全体としてはバランスがとれた「噛みあわせ」になっており、曲がった一本のためにできることは唯一、周辺の歯も全部抜いて部分入れ歯にすること。でもこの年でそれは勧められませんから、今の歯を大切にね、とのことだった。
それと皆が見落としがちなのが舌。生まれつき大きさは決まっていて都合が悪くてもカットできない。切実なのは、顎が小さくなると舌がいちいち歯にあたり、口内炎に悩まされる人生になる(←まさに私)。
しかも舌って手足と同じようにむくむんだよね。代謝が悪いといつもより舌が大きくなり、喋るだけで舌を噛むし、疲れている時などは、擦れたところが傷だらけになるし、本当に悲惨なのだ。
10年の歳月をかけた超高級歯列矯正の我がスポンサーはもう揃って他界し、娘がガタ歯に戻ったことを知らないのがせめてもの親孝行かな(笑)。でもこの舌に起きる習慣的擦過傷は「年をとるとそこからガンになるよ」と医者の義兄につぶやかれて冷や汗が流れた。
何がいいかなんて、わからないもんだよね。
(飯島)