歯医者へ歯石のお掃除にいくと、やたら勧められる矯正。街角でもやってる人多いな~って印象があるし、一昨年歯医者でしつこく勧められ「矯正専門医」と面談までさせられた。面談の結果「矯正は不適合です」と言われたけど当たり前だ。私は幼少期に9年かけて歯列矯正しており、あんなこと今さらまたやれるか!なんだけど、患者に歯列矯正させることで起こる先々の苦労を歯科医自身が意外と理解していない。子供の歯並びで悩む人も多いだろうから、こんな話でも参考になれば。
きっかけは受け口の矯正
物心つく前から無類の飴好きで虫歯だらけだった私は、実は反対咬合でもあった(いわゆる受け口)。子供のうちはよく見ないと分からない程度だけど、上あごの前歯が下歯の外側にあることでストッパー的な役割を兼ねていて、ちょっとでも上歯が被っていないと下顎はどんどん発達してしまうらしい。
私が行った昭和の歯列矯正は、乳歯から永久歯に生え替わるタイミングにあわせて歯の本数を「間引き」するもの。
歯の根は所定の本数を生やそうとするので、何もしないでおくと口の中に歯が並びきらず、狭い一角に立て看板を無作為に立てたように、歯の向きがバラバラになってしまう。なので成長と共に9年かけて歯医者へ通い、生え変わり時をいかして抜歯しながら、口中のスペースにあわせて並びと本数を揃えていった。
健康な歯って、抜けにくいんだよね。歯科医が腕を震わせながら力任せにギュッと引っこ抜くと、こっちの頭がヒュッと浮いてしまう。けっこう笑えます。
青春時代はアルミ箔を捲いたような総銀歯
今はだいぶん装備も軽いようだけど、当時は歯の一本一本にアルミの輪をはめ、輪の外側に付いたでっぱり金具に細い針金を通し、歯と歯が口の中のカーブにきれいに滑らかに沿うように1本ずつ縛り上げる方法。力技で歯の向きを揃えていくので、とにかく痛い。痛みが和らいだ頃に通院日がやってきて、先生がペンチで針金を外し直して再度縛りあげるのでまた痛い、それを繰り返す。
縛った針金を丁寧に丸めてもらわないと、唇の内側やほっぺたの内側にグサグサと当たって痛いし、奥歯などは高さがないので、細いアルミの輪が歯ぐきにあたると噛むたびに痛い。この頃から口内の痛みに人知れず堪える運命だったのかもしれないなぁ。
そしてニッと笑うと歯がオール銀色。恥ずかしいよね。その苦労のお陰で私の歯並びはタレントのように美しかった。
結婚して数年後、下顎の前歯が一本曲がってる!
いつも横を向いて寝ていたし、寝返りも極力うたない。そうすると、ずっと何年も同じ横向きで寝てることになり、体の右と左がズレてゆがんできた。腰はもちろん、下になった肩や顎も曲げたようで、ホットヨガで身体のゆがみを指摘されるまで気づかなかったが、床に平行に寝ているつもりでもねじ曲がった鉄板みたいにどこかが浮いてしまい、ぺったりと横たわれるようになるまで3年かかった。
つまり生活習慣で体が歪むと、苦労して直した歯列もまたズレるということ。「若いうちに歯を直しておけば一生もん」ではない。カルシウムの体内備蓄が2年で一巡するように、体は生きて変化していく。
いまや曲がった一本の歯だけ上の歯とぶつかり、歯石のお掃除に行っただけで「歯列矯正したほうがいい人」になってしまった。
目先の容姿だけを理由に歯を減らさないこと
芸能人の整形手術なんかで聞くけど、奥歯を抜くと顎が小さくなる。若いうちは、小顔でいいわね、ぐらいにしか思わないだろうが、書いたように経年劣化がある。奥歯が少ないとあごのジョイント部分が弱くなるので、欠伸をするとガクンと顎が鳴って頭蓋に衝撃が走る。食事のし始めなどに顎に激痛が走ることもしょっちゅう。
それと皆が見落としがちなのが舌!生まれつき舌の大きさは決まっていて、都合が悪くても小さくカットできない。顎が小さくなると舌が歯の内側に当たったり、ほっぺたの内側を噛んだりして、口内炎に悩まされる人生になる(←まさに私)。
切実なのは、舌って手足と同じように浮腫む(むくむ)んだよね。代謝が悪いと舌が大きくなり、喋るだけで舌を噛んだり、疲れている時などは舌がずっと歯に当たっていて、擦れた痕が傷になったりする。こうなると本当に、痛くて辛くて悲惨なのだ。習慣的すり傷は「年をとるとそこからガンになるよ」と医者の義兄に言われており、毎回冷や汗が流れる。
「歯を食いしばる」のは誰にでも無意識にちょくちょくある
歯は100キロだかの重量を支えられる力があるらしい。奥歯は特に重要。それも上の歯と下の歯が、ひとつずつ、それぞれ当たっていないと、モグモグしても食べものを噛み砕けない。
私は上下の歯の本数が違ううえに3~4本ずつ少ない。左と右の本数も違う。片側だけ奥歯の代わりに親知らずを使っているらしい。でもそれで絶妙なバランスがとれた「噛みあわせ」になっている。
私の母は老年に歯医者へ通い、何を思ったのかいつのまにか上顎が総入れ歯になっていて(無事な歯もあったはずなのに)、体調を崩して入院した折に痩せて入れ歯が合わなくなり、口からの食事を諦める羽目になった。
美意識にこだわっても食べられずに死んでしまうようでは意味がない。私も、この曲がった一本の下の歯のためにできることは、周辺の歯も全部抜き「曲がった歯ごと部分入れ歯にすること」しかないと言われた。でもそれは勧められませんから、「ま、今の歯を大切にね」とのことだった。