借りている区画だけの話ではなく、今回はちょっと周辺の話を書きます。
私が借りている農園は、かつては養蚕が盛んだったのどかな田園地帯で、近くにはあんずの木が立ち並んでいた「あんず通り」もあるような地域です。南北に長い土地の南端に地主さんやご親族の住宅が数戸あり、その奥に平屋の賃貸住居が数軒並び、私道を挟んださらに北側に大きな農地があります。ちなみにこれおひとりの所有地の話ね。
その大きな農地の南半分は地主さんの管理で、ご自身で耕したり、近所の幼稚園に貸したりしていて、畑の真ん中にある納屋(なや)の奥が「マイファーム」というサービスで提供されるレンタル区画です。全部で20区画ぐらいあるうちの一つを使っています。
南北に長いこの土地は東西にずらっと板かまぼこを切ったように区画整理されてたようですが、どこの土地も切れ切れに手放され、このように大きなまま維持しているお宅はほとんど残ってません。昨年までは2区画ぐらい隣に別の所有者さんの林がありました。マンションやビルのエントランスに植えるような大きな木々を育てていた畑のようで、見ごたえのある大きくて静かな空間でしたが、あるとき全ての木が撤去され更地に・・・跡地はご多分にもれず大きなマンション建築中。(工事現場に「地球沸騰化をみんなで抑えましょう!」的な旗が飾ってあってちょっとアナクロ感)
日々の利用では地主さんともよく顔を合わせるので、ご挨拶したり、ちょっと立ち話したりする関係になってます。畑の両隣は高いビルに挟まれていて、建つときは日照のことばかり心配してたけど、建ってみたら「ビル風のほうがすごかった」らしい。
農園の入口と畑全体をぐるりと囲むようにkohoさんというガーデナーさんが木や花を植え管理しています。あんずや柿をはじめ梅や桜、さくらんぼやレモンなど覚えきれないたくさんの木々のほか、四季の花々などが植えられ季節によって表情も変わり、さながらイングリッシュガーデンのよう。借りている自分の区画にたどり着くまでの道も散策気分です。
中央にはサルナシの木で覆われた日陰棚と用具入れがあり、その脇には木陰に守られた大きな烏骨鶏の家があります。この烏骨鶏ハウス、大工さんが構想を練りに練って建てられたもので、屋根も高く段差もあり、3畳間ぐらいある豪邸です。最初の頃はこの烏骨鶏が食用だったらどうしようと行くたびにドキドキ。でも卵をいただくだけで基本はペットとして飼われてるとわかり安心。行くと必ず声をかけるので「アッアオゥー」とご機嫌な返事を毎週もらえます。
そしてここのマイファームのスタッフで管理者の女性が個性的でいい。アドバイザーと呼ばれ、道具の管理や体験希望者の案内のほか、野菜の育て方や、土地の使い方などなんでも相談にのってくれる存在ですが、彼女は植物全般に愛情があり、野菜の収量をあげたり味を良くするための「こうやるべき!」は二の次(べき論者は意外と多い)。空き区画にいろんな種を蒔き、間引き菜は必ずどこかに植えなおすし、収穫しそびれた野菜は放置して花を咲かせ、その種がまた育つところまで楽しむ。気負うところが全然なくて、ありのままでいいじゃん、って感じ。「野菜」と「野菜以外」を線引きしない、究極のリベラリストだと思うな。
そして彼女の淹れたハーブティーの美味しいこと!「やっぱ草だけじゃ不味いな」という過去の自分のバカさ加減に驚きました。
通いやすさと予算でここの畑に移ってきたけど、野菜を育てる以外の楽しさがこんなにあるとは思いもよらず、運がよかったなと思っています。そして最近改めて気づいたのは「畑は涼しい」こと。土はアスファルトと違って熱を吸収するため、ひとたびここの畑に入ると体感で3〜5℃ぐらい違います。つくづく都心のコンクリ群は、地球沸騰化を加速する無駄な開発ですね。
野菜の収穫とは土の栄養を持ち出す作業。つまるところ「農とは土作り」と考えざるを得ない、とやっと体感しました。
野菜を育てることだけ考えてもうまくいかないし、この熱暑でさらに難しくなっている。課題があればそれなりに打つ手はあるけど、確実なものは何一つないから、気が短い人・手っ取り早く答えが欲しい人には向いていない。でも、やればやっただけ応えてくれる「何か」は確実にあります。その手ごたえは、都会の人付き合いよりも濃いかもしれないなー。