忙しくて仕事ばっかりの時、空いた時間で「大好きな服をどっさり買う」というストレス発散に没頭した時期がありました。
ここと決めたブランドに20年以上通っていたので商品履歴に詳しくなったのはもちろん、次の季節に発売される型紙資料を店頭で見ながら買い物プランを立てたりしていました。一つのブランドに絞るとコーディネートも楽だし、担当の人がワードローブを覚えてくれ、希望の品は取り寄せてくれる。とても便利。これは母の教え。
買った洋服の手入れはほとんどドライクリーニング。出す量も多く、いろいろ試して納得したクリーニング屋さんに御用聞きでうちへ通ってもらっていました。
ところがその職人さんが亡くなり息子さんが跡を継いだところ、預かった洋服のメモも伝票も付けてないし、次のシーズンまで預かってくれるというサービスのもとに放置されそのまま忘れられることが続いた。ブランド名を目印にしてたようで、違う洋服を預けてしまうといつしか他人のものになってしまい「あれが戻ってないよ」と言うと、さっと持ってくる。持ってくるうちはまだマシで、そのうち「それは洗って返してるはずだ」とか「そもそも預かっていない」とか、あげく「代わりにこれでどうですか」と同じブランドの違う服をもってきたりして(それは誰の服なのよ!)取引を止めた。
私も手持ちの全品が思い出せないから杜撰なのはお互い様かもしれないけど。ちょうど同じ時期に母の遺品である高級衣類品を一式、家の床が抜けるんじゃないかと思えるほど大量に引き受ける羽目になり、自分の頭で管理できる量を超え「記憶枠」が決壊したことも原因でした。
ここ10年ほどモノに埋もれる日々で、窮屈で身軽になりたいと強く思いはじめ、手始めに洋服を捨て始めた。
これが難しい。
10年以上前の洋服は素材もいいし、仕立てが日本製というのもまだあるので、古いほどメイドインジャパン率があがってかなり上等なんですよね。破れたり穴が開いたりしたわけでなく、高級品だからヘタってもいない。捨てる理由は「もう流行らない」だけ。しかも若いころ「本当に似合っていた」服は、年をとってもそれなりに着こなせてしまうので、捨てる理由が見つからない。試しにネットの古着屋さんに売ってみたら新品同様の麻ジャケットが一枚90円と査定され、バカバカしくなってそれっきり。
ここからはもう自分との格闘。「もう古いから!」と思い切って捨てたら翌年リバイバルで流行ったとか、あれ以上にサイズがぴったりなものが結局見つからないとか。
最近の洋服はクリーニングに出すと加速的にヨレヨレになるのが多く、選んで残したのに捨てざるを得ないとか、もう判断下手がひどく後悔と反省の日々。
気づけば流行かどうかよりも、シミ、よれよれ、テカテカの方がヤバい年齢になってきた。そこでアッと気づく。ドライクリーニングって石油で汚れを落とすから生地に負担がかかり、長年洗い続けると薄くぺったんこになる。よしよし、捨てる好条件の「よれよれ」がやってきたぞ!と捨てる前段階の洋服を集めて感慨深く眺める。
ところが「これが最後のシーズンだから、洗濯機で洗って休日にうちで着て処分しよう」とうっかり水洗いしたら、なんと生地の厚みがフワッと増して逆にいい感じになっちゃったりして!ワーもう、捨てるつもりからお気に入りへ3段飛びで大混乱だよ~!
じつは私、かなり洗濯好き。モノによって洗い分けたり洗剤を変えたりはもちろん、特にセーター類を傷まないように洗うのが大好き。むかし身頃が片側だけきれいにほつれたカーディガンを着てきたスタッフがいて「へ―今はこんなおしゃれもあるんか」と感心していたら、洗濯でこうなったと聞いて「そんなことできるの?!」とビックリ。
うちの洗濯機はサンヨーの全自動で10年超えになってきたけど、どうやら相性が良いみたいで、家で洗えば洗うほど着心地が良くなって捨てる理由がなくなってきました。最近では自宅で洗えるブランド洋服も増えているし、柔軟剤と洗濯ノリを半々に使うと型崩れせず肌触りも気持ちがいい。最近の洗剤CMで「洗った方が長持ち」というのも体感しています。
難点は洗って干すのに結構な手間と場所がいること。休日に洗濯4回転ということも珍しくなく、一日があっという間に。
でも、スッキリと洗いあがった綿のシャツや柔らかいセーターに袖を通すのは気持ちがいい。時間もあることだし、のんびりやるのも悪くないかな。