個人的にはちっとも親しくなく、名前も知らなかったくらいなのに、とても大好きな和食料理人の大将がいました。我がアイデアパンチが代々木に事務所を構えた頃からの付き合いで、そのお店には昼のランチも夜の一杯もお世話になっていました。
近年は、週に一度のペースで通っていたので、ちょっとした友人よりも身近な他人。しかも昼も夜もとなると、大将の料理で体の一部が作られていると言っても過言ではないくらいの気持ちでした。
年齢も私と近そうで気安さもあったし、行けば一言ぐらいは言葉を交わすし、あるときのランチでは、前夜のお刺身を「余りなんだけど」と申し訳なさそうに、でもきれいな小皿に盛って、こっそりサービスしてくれたこともありました。昼定食に必ず茶碗蒸しがついていて。なかなかないんだよね、茶碗蒸しを食べさせてくれるお店って。
ところが先週は3連休明けで忙しくて、そのお店へランチに行けなかった珍しい1週間でした。しかも社内では乳製品スイーツの企画があって、いつもの料理スタッフと試作してあれこれ悩むことになり「食に携わるプロで、身近で気安く頼みごとができそうな魚籠案の大将に試食をお願いして、コメントもらおうかな」という珍しい話まで出て、いざ、事前に打診しておこうと1週間ぶりにランチに訪れたら、大将が居ない。
ここ何週間かの姿を見て、様子が妙な気がしたから、よもや辞めたか?なんて思いながら席に着いたら。いつもの仲居さんから、大将急逝の報に触れました。
7月21日、いつものように仕事を終えて帰宅され就寝したのに、翌朝ご家族が目覚めた時にはもう亡くなっていたそうです。享年42歳。
ちょっと調べてみると、40代男性の就寝中の突然死は、突出して多いんだそうです。
昔、とてもお世話になった、お得意様であり敬愛する仕事仲間だった故 田浦祐二さんも、約7年前、40代前半で突然亡くなってしまった。5年ぶりに札幌で逢ってお酒を酌み交わした翌月のことで、遺された奥様と10代のお嬢様がいらしたはずだが、当時の私は葬儀に参列することで精一杯だった。
事情こそ違うが、私の仕事の師匠でもある父も、吐血して周囲が吃驚している1時間ちょっとの間に亡くなった。突然この世から家族が消えてしまう哀しさを体験した身としては、遺されたご遺族のご心境を思うと、とても他人事とは思えない。
魚籠案は麦とろが美味しくて、お客様を連れて行っては、お酒のシメに薦めていました。
トマトとモッツアレラの天ぷらは本当に意外な美味しさで。
山菜もご自分で採りに行ったと聞いたことがあるし、お薦めの刺身はいつも間違いなく、確かだった。あぁ。もっといろいろ感激したお料理がたくさんあったのに、いざとなると出てこない。
「あの料理、美味しかったからまた再開してよ」なんて気安く言えるようなお店、なかったのに。
うす味ながら何気ない余韻を残し、そこはかとなく上品で、ハズレがない大将のお料理の数々。私は本当に大ファンでありました。
彼の作ってくれた料理と生き様に合掌。ご冥福をお祈りします。