新宿には百貨店が過剰なほどある。小田急や京王のほか、タカシマヤや伊勢丹のほかに、マルイ、ルミネ、エスト、ニュウマン。いずれもフロアが5~10床程度あり、衣料品をはじめ国内外のメーカー品を定価で販売している。品ぞろえにターゲット層の違いがあるもののどこも似たり寄ったりで、違うのはポイントグループと紙袋ぐらい。それでも私は「休日は家族そろって百貨店へお買い物に」という世代で百貨店は便利な存在だと思っていたし、品ぞろえに頑張っている店は心から応援しているし、どこで買っても同じものは応援している百貨店でわざわざ買うようにしていた。
ところが4月7日の緊急事態宣言の翌日、全百貨店が休業に入った。休業が要請される業種の予想がまだ街中に飛び交っていたころ。4月は季節が変わる時期で、初夏に向けて新しい靴下やワイシャツを買わなきゃ、化粧品の補充もしなきゃ、畑用の帽子もほしい、と、休業と分かればあらかじめ買っておきたいものがいろいろあったのに、なぜあのスピード感で一斉に休んだのか。この気の利かなさ、客商売としては致命的じゃないだろうか。ああも率先して休まれると、自らの存在を「不要不急」と高らかに宣言してるようなもので想像力の無さを感じるし、当然各社で相談して決めたんだろう。長らくの百貨店愛用者としては残念な気分だった。
根が「裏を読みたい」性格なので、みごとな全店休業によって、この機会に各店改装や清掃、あるいは従業員教育でもするのかと想像した。電車のひどいクレゾール臭に辟易していたせいもある。私はハウスダストアレルギーで、見た目ピッカピカのオシャレな空間でも空調設備の清掃が行き届いてない古い施設では滝のように鼻水が流れだすという清潔センサーを持っているため、その期待も込めて閉店休業中の建物前を通ってみたが、中に人の気配はなく、本当にただの閉店のよう。
お客様の中には、困ってる人がいるんじゃないか、ということを、どこの百貨店も思わないんだろうか。
その次に「口うるさい従業員が労働組合よろしく休業を主張して押し切られたのか」とも想像した。失礼ながら派遣社員が多そうだから「休業したらギャラも払わなくていい、それは渡りに船」と経営陣がうっかりそう考えたのではないか。近年コロナにに関係なく、平日の日中はどの百貨店も従業員しかおらず客ゼロのフロアも珍しくなかった。観光客も入国時に足止めされ爆買いの主役、中国人も激減していた。よもや「お客様の健康のために」なんてのは計算に入っていたはずもなく、きっとコスト対策だと思う。そうしたら4月下旬あたりから地下食品街が開きはじめさらにビックリ。デパ地下こそ「密」じゃないの?物産展とデパ地下は「汗だく」のイメージよ。
本当にお客様のことを考えていたら輪番で開けるぐらいのことを思いついたっていいのに。
あれだけ一斉に足並み揃えて動けるなら、開けられるだろう。月曜日は小田急、火曜日は京王、水曜日はルミネが開いてます、ってやればいい。紳士服はマルイ、婦人服は伊勢丹、家庭用品はタカシマヤ、へどうぞ。でもいい。どうせ似たようなものしか並んでないんだから。
ネットで買う方が都合がいいものはとうに切り替えており、バッグに入れて持って帰れる数千円のものこそ店頭で買いたい。
ゴミの日に段ボールが大量に出たり、空気のようなパッキンを一つずつ割って捨てるとき、その梱包材料費や手間賃について環境保護の視点から悩む。送料無料はありがたいけど、配達の人たちには日々お世話になっているため、労働の対価が手に入らないような社会構造の後押しをしたくない。配達日と在宅日を合わせることも気苦労が伴う。
だから百貨店の経営陣がどう考えていたのかわからないけど「ネットで買う」というのは百貨店の代替たりえない。でも全く別次元の問題として百貨店のオンラインショップもみな一様に閉まってたので、実店舗と同じようなオペレーションなんだろうことにもけっこう驚いた。
コロナ後の「新しい日常」なんてのは、できそこないのキャッチコピー程度しか実体がない。
これからは、未知の世界へ三段跳びで行かねばならない、のではなく、日々の当たり前の行動をいかに分散するかが入口だと思う。リモートだ、web会議だというのは、そのツールを売りたい人がビジネスチャンスに大声で叫んでいるだけ。私だったら品ぞろえ以外の工夫を真っ先に考えるけどなぁ。誰かそういうアイデアを提案するチャンス、くれないかしら。