流出額580億円という金額の大きさと、それを自己資金で返金というニュースに2度ビックリ。「兄さん、本当にわかって言ってるのかよ」(出川哲郎氏出演のCMはこんな感じだったかな)。盗んだ犯人のお財布にマークを付けて、換金すれば逆引きできるようにとリアルタイムで追跡・奮闘している技術者の記録を読んで、まるで映画を見ているような興奮におそわれながらも、同じ地球での出来事とは思えないほど遠くに感じてしまった。でもやっぱり、優秀な技術者は本当にすごい。
せっかくの機会だから、世の中のwebサーバーとハッキングについて解説してみます。
みなさんがショッピングをしたり記事を読んだりしているサイトには必ずドメインがあり、URLというインターネット上の住所があります。そのサイトは「webサーバー」に格納されており、webサーバーは主にレンタル会社から誰でも借りることができます。仕様はピンキリですが賃貸マンションの1室を使ってるようなものが一番身近です。だから契約数なんて自動販売機の数ぐらいあるんじゃないかな。
レンタルサーバー群は主に日本の数か所に点在するデータセンター(DC)にあります(家に置いて貸してます、という時代もあったけど)。地震や自然災害のリスクが少ない場所ですが、セキュリティ対策上ユーザーに開示しません。自前でサーバーを建てている企業も多いですが、ほぼDCの中にあるもので、皆さんが使っているアマゾンや楽天、facebookとか、googleクラスで自前サーバーでしょう。だいぶ前ですがソフトバンクがサーバーを韓国のDCに移したので、契約者が払う利用料は韓国の利益になる・・・なんてニュースもありましたね。
webサーバーには契約者の入口のほかに管理者が入るところがあり、サーバー管理者というのがいます。「交番の前に立っているだけの近所のおじいちゃん」みたいな技術者から「あらゆる武術に長けてるうえにオリンピックにも出たこともある」みたいな技術者まで幅広いです。でもweb制作業に従事する技術者とは専門分野が異なり「サーバーのことはわかりません」という技術者もたくさんいます。(「コンテンツのことはわかりません」という技術者も当然います)ですが優秀なハッカーより腕のいいレンタルサーバー管理者はいない、というのが現実です。究めるほど、より高い山に登りたくなる孤高の技術者、ということかな。ハッカーもいろいろあってシステムの穴を探してコンコンつついてきますが、ひとたび侵入された後に彼らがどう振舞うかは、彼らの志や技術レベルの高さと比例します。そうしてほんの出来心からガチな犯罪まで、ありとあらゆるアタックが24時間年中無休でしかけられていて、そこにサーバー管理者がはりついています。マシンを構成しているシステムの何かに脆弱性が見つかったといえば即パッチをあて、という永遠に続く作業をやり続けています。皆さんが今見ているサイトも、買い物したサイトにも、裏にはそのサーバーを「いま」管理している人がいます。そう思うとちょっと身近でしょ?みなさん、陰の立役者の技術者さんに感謝してネットを使いましょう。
最近メーカーの直販サイトへ行くとお詫びが載っていることが急増してます(そういうの読むの大好き)。原因はいろいろでしょうが、ネットで販売サイトを作りたいと思う人が急増した割に、サーバーチョイスやシステム構築の面で適切に助言できる技術者や、セキュリティ知識を過不足なく持ったディレクターが不足しているからでしょうね。さらに近年は便利アプリが増えましたが、ニーズに見合うほど技術者が増えていません。育成機関もほとんどなく、数少ない優秀な技術者は、ひと山当てたいスタートアップ系に好待遇で囲い込まれてしまうというのもあります。とはいえ仕事の実情は川のように低きに流れ、外部委託も多く、直接寝る時間も削ってガツガツとプログラムを書いてる現場の人たちは目の前のプロジェクトに精一杯。安倍さんの唱える「働き方改革」なんてのは、失笑含みで地球の裏側の出来事です。
優秀な技術者は論理的思考を持ち、正義感が高く、頭のいい人が多いのですが、社会的な身分保障や生活設計には興味がない人も多いです。
海外では、創作活動をしているアーティストにつくマネジメント専門の人がいるように、技術者にもそういうフォロワーが付く方法はないものでしょうかね。
それには、システムにお金を払うという認識が、世間にもっと広がる必要もあります。SNSなどのフリーサービス提供側は、ビッグデータというお金では買えない情報資産を大量に手に入れるメリットがあるため一人一人から利用料をとらずにタダなだけで、サービス側が負担しているコストが見えてきにくいのも問題だと思っています。広く浅く利用者から資金調達しようとするサービスは、これまた(全部とは言わないけど)ビックリするほど使いにくいシステムばかり・・・・。
自社の収益を上げるための目先の手段というだけでなく、社会インフラへの投資として、技術者の待遇にもコストを割いてくれるプラットフォーム企業が増えることを願うばかりです。