母の入院見舞い、という気の重ーい所要で京都へ行き、新築で立派なしつらえのホテルにお安く一泊。折しも混雑で予約内容より広い部屋を用意され、部屋に入ってその充実に驚く。そこはレディースフロアと呼ぶらしく、アメニティという名の備品が各種充実はもちろん、折りたたまれている地厚のパジャマはほどよく柔らかく、裏地がうっすら起毛していて着心地がいい。バスタオルも外国製品のように厚みがあってフカフカ。そして加湿機能付きの空気清浄機がドカンと部屋中央に鎮座ましましている!「ホテルに泊まる=乾燥して風邪を引く」というのが厄介だったので、何より嬉しいかも!!
ウキウキしてきて辺りを見回すと、口を尖らせた蛸の頭みたいに、細い筒が飛び出た白くて丸い機械が目に止まる。どうやらマイナスイオンをシャワーっとあてる美顔器なようで、ご自由にお使いくださいとある。こちとら日々の仕事とストレスに揉まれ、いつまでも若くツヤツヤのお肌にお金と寸暇を惜しまない人とは住む世界が違うんじゃい!と、見当はずれな怒りで「キレイなおネエさん」の広告を横目でやり過ごしてきた身。しかし今晩ここに置いてあるなら、そりゃあ使わない手は無いんじゃないの!しかも寝てる顔に当てるだけなんて・・・。もしこれで効果が出るならこんなにラクちんな美容方法は無い。もし良かったら思い切って買ってみるのもいいかも、と気分はイッキにエスカレート。
1回入れると8時間稼動で、フムフム、顔だけじゃなく髪の毛に当ててもよいとある。そうか、ツヤツヤ髪の人をたまに見かけるけど、こういうのを使ってるのかと早合点。この蛸の口からマイナスイオンが吹き出すらしいが、吹き出し口の角度はほぼ固定されていて、よく見ると似たような製品群の中でもお安そうな機械。どう考えてもベッドサイドに置くしか8時間も浴びられる手段は無いのだけれど、仰向けに寝ても顔の半分にしか当たらないじゃないの!逆方向に寝返りをうった日にゃマイナスイオンは後頭部にでも当たればマシで空を切る可能性もある。自慢じゃないけど私は一旦寝てしまえば熟睡タイプで、若いころ、起きない私に苛立った母に水をぶっかけられたこともある。寝相は悪くないけれど、180度回転することはよくあって、今でもたまに布団からニョッキリ出た二本足が枕の上にドッカと乗り、仰天した夫の短い悲鳴で目覚める朝もある。これ・・・大丈夫かいなと思案しつつも、まぁどうせここにあるんだし、と再度割り切りスイッチオンとともに就寝。
朝、うっすら緊張して寝た体のきしみを感じながら、目覚めて早速顔を触ってみる。やっぱりというか、がっかりというか、どう贔屓目に見てもいつもの顔で、見た目にはなんら変化が無かった。でも蛸の口側だった左のほっぺただけが、心なしかモチモチして柔らかい感じ。化粧水がスッと入っていく感じも、しないわけでもない。
この、得したような、しなかったような、中途半端な気分。せっかくのホテルの心遣いなのに、気持ちが上がった分だけドッと疲れがわいてきた。中途半端なサービスはかえって感動をそぐのだ、アイデアパンチも気をつけなはれや!とわが心にハッパをかけてフト、仕事のことにつなげて考えている自分に気がつきながら帰路についた。今年は去年よりもっとがんばろう。